山形地方裁判所 昭和59年(ワ)156号 判決
原告
第一貨物自動車株式会社
被告
山崎春雄
主文
一 被告は原告に対し、金二三五万九〇七八円及びこれに対する昭和五九年七月四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、金三八二万八八三八円及びこれに対する昭和五九年七月四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 本件事故の発生
(一) 日時 昭和五九年三月七日午前六時三五分ころ
(二) 場所 川口市朝日町二―二六―二先の十字路交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 加害車両 大型貨物自動車(足立一一ゆ三六七九。以下「加害車」という。)
右運転者 訴外高橋七平(以下「高橋」という。)
(四) 被害車両 大型貨物自動車(栃一一あ六八七八。以下「被害車」という。)
右運転者 訴外岩間五郎(以下「岩間」という。)
(五) 態様 被害車が本件交差点を赤羽方面より浦和方面に向け進行中、左方より同交差点に進入してきた加害車が被害車の左側部に衝突したもの。
2 責任原因
(一) 原告は、貨物の運送を業とする会社で、被害車を所有し、同業務に使用していた。
(二) 高橋は、対面信号機が赤色を表示していたのに、これに従わず、漫然本件交差点に進入した過失により、折から対面信号機の青色表示に従つて進行してきた被害車に衝突した。
(三) 本件事故当時、被告は高橋を雇用し、同人は被告の業務の執行として加害車を運転していた。
したがつて、被告は、民法七一五条に基づき、原告が受けた損害を賠償する責任がある。
3 損害
(一) 被告車の損害 金二五八万円
原告は、本件事故による被害車の破損が著しかつたため、昭和五九年七月五日、同車を廃車したが、同車に対応する標準車両の評価額はオートガイド自動車価額月報によれば金二一五万であるところ、被害車には特別仕様を施していたので、その価額は金二五八万円となる。
(二) レツカー・クレーン作業代金 金九万円
(三) 休車損害 金五八万三一二八円
被害車の事故前三か月間の運賃収入は合計金六二四万八一〇三円であるから、同車の一日当りの運賃収入は金六万九四二三円となるところ、原告の利益率は各自動車の運賃収入の三〇パーセントであるから、被害車を運行させることによる原告の収入は、一日当り金二万〇八二六円となる。
原告は、前記のとおり、被害車を廃車して新車を購入したが、新車が納入されたのは昭和五九年八月一日であるから、被害車を廃車にする旨決定した同年七月五日から新車が納入された同年八月一日まで二八日間の休車損害は金五八万三一二八円となる。
(四) 積載品の損害 金五七万五七一〇円
被害車には本件事故当時プラスチツク製テレビの部品及びトランスモニターが積載されていたところ、これら積載品は、本件事故により破損してしまつた。そこで、原告は、積載品の所有者である訴外ダイヤプラスチツク株式会社(以下「ダイヤ社」という。)に金三四万七一〇円、同じく訴外松下産業機器株式会社(以下「松下産業」という。)に金二三万五〇〇〇円の損害賠償金を立替払いし、合計金五七万五七一〇円の損害を受けた。
よつて、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき金三八二万八八三八円及びこれに対する訴状送達日の翌日である昭和五九年七月四日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は全て認める。
2 同2のうち、(二)の事実は否認し、その余の事実は認める。
3 同3の事実は不知。
なお、同(一)について、本件事故時の被害車の価格は、被告の損害保険契約先である訴外大東京火災海上株式会社の査定では金九二万一二〇〇円である。また、同(三)に関し、車両を廃車にしてから新車購入までに要する期間はせいぜい二週間あれば足りる筈である。
三 抗弁(過失相殺)
岩間は、加害車を一六メートル手前で発見したのに、ハンドル転把や急制動の措置を講じなかつた。また、被害車は、加害車と衝突後、更に訴外小泉秋雄(以下「小泉」という。)運転の大型けい引自動車(以下「小泉車」という。)とも衝突したが、右被害車と小泉車が衝突するについては、岩間及び小泉の各運転操作に不適切な点があつたところ、同衝突が被害車の破損の程度を大きくした。
したがつて、本件事故に関し被告に責任があるとしても、賠償額の算定にあたつては、右の点を斟酌して減額されるべきである。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実は全て否認する。
岩間は、赤信号を無視して交差点に進入する車両はないと考え、青信号の表示に従つて進行したものであるが、かかる判断は信頼の原則上許されるものというべきである。また、同人は、加害車との衝突の衝撃により、被害車を操縦することが不可能な状態に陥り、小泉車と衝突したもので、原告側に過失はない。
第三証拠
本件記録中の書証及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1の事実(本件事故の発生)は当事者間に争いがない。
二 同2(被告の責任)について
1 同(一)及び(三)の事実(原・被告の地位)は当事者間に争いがない。
2 いずれも成立に争いのない甲第三ないし第一〇、第一三ないし第一七及び第一九号証(但し、甲第一〇及び第一七号証については、後記措信しない部分を除く)を総合すると、本件事故は高橋が赤信号を見落して本件交差点に進入したことにより惹起されたものと認められ、甲第一〇及び第一七号証(いずれも高橋の供述調書)中右認定に反する部分は、その余の前掲各証拠に照らし到底措信できず、他に右認定に反する証拠はない。
3 してみると、被告は、被害車の所有者としてこれを営業の用に供していた原告に対し、民法七一五条に基づき、本件事故により原告が受けた損害を賠償すべき責任がある。
三 そこで、原告に生じた損害(請求原因3)について判断する。
1 被害車の損害(同(一))について
前掲甲第三号証、いずれも成立に争いのない甲第二七及び第二八号証並びに乙第一号証の六及び第二号証、証人高梨馨の証言(第一回)により成立を認める甲第一号証、同証人の証言(第二回)により成立を認める甲第二五号証の一及び二並びに第二六号証、証人大竹潔の証言により成立を認める乙第一号証の四、五及び七、被害車を本件事故後の昭和五九年三月一〇日ころに撮影したものであることに争いのない甲第三〇ないし第三二号証、証人高橋馨(第一及び第二回)及び同大竹潔の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、(1)被害車は三菱ふそう五五年式FT三一八V型車で、昭和五五年一〇月に初度登録がされ、本件事故時まで三年五ケ月の間営業用の車両として使用されたものであること、(2)被害車と同型車の新車価格は金六五八万円であるが、被害車はボデイー等に特別仕様を施していたため、その購入価格は金七九三万六〇〇〇円であつたこと、(3)中古車の価格算定に広く用いられているオートガイド自動車価格月報によれば、被害車のようなトラツクを三年五ケ月間営業に使用した場合の減価償却残存率は一四パーセントであること、(4)被害車は本件事故によりキヤブ、足廻り、荷台などがいずれも大破し、原告が訴外草加旭自動車ボデー株式会社に事故直後その修理費を見積らせたところ、同社から金三九八万円を要するとの見積りが出されたこと、(5)そこで、原告は、被害車を廃車にして新車を購入したこと、(6)一方、訴外大竹潔は、被告の損害保険契約先である訴外大東京火災海上株式会社の子会社の従業員として、被害車を本件事故直後に見分し、その修理費を算定したが、右見分は、車両の内部まで詳細にしたものでなかつたのに、その算定額は約金一二九万円になつたこと、以上の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
しかして、右認定事実の(1)ないし(3)に基づき計算すると、被害車の本件事故時の価格は金一一一万一〇四〇円であると推認されるところ、右認定事実の(4)ないし(6)によれば、同車の修理費が同額を超えることが明らかであるから、同額をもつて本件事故による同車の損害と認めるのが相当である。
(計算式)七九三万六〇〇〇円×〇・一四=一一一万一〇四〇円
なお、前掲甲第二八号証には、被害車の本件事故時の価格が二五八万円と試算される旨の記載部分があるところ、同書証、前掲甲第二七号証及び高梨証言(第二回)によれば、同試算は、被害車と同型中古車の平均販売価格が金二一五万円であることに基づいてなされたと認められるが、右甲第二七号証によれば、右平均販売価格は仕上価格であることが認められるのであるから、これを基準にした右試算は、被害車固有の価格を算定する方法としては不適切であつて、採用できない。
また、前掲乙第一号証の五には、被害車の償却残存価格が金九二万一二〇〇円であるとの記載部分があるが、これは被害車に前記認定のとおりの特別仕様がなされていたことを考慮しないで計算されたものであることがその記載から明らかであるから、これまた前記認定を左右するものではない。
2 レツカー・クレーン作業代金(同(二))について
被害車が本件事故により大破したことは前記1に認定したとおりであり、また、高梨証言(第一回)及びこれにより成立を認める甲第二〇号証によれば、原告は、杉町商会こと訴外杉町節夫に対し、被害車を本件事故現場から原告の足立支店まで運搬することを依頼し、その代金として金九万円を支払つたことが認められ、この認定に反する証拠はない。
してみると、右金額をもつて本件事故による損害とする原告の主張は相当である。
3 休車損害(同(三))について
成立に争いのない甲第二九号証、高梨証言(第一及び第二回)並びにこれにより成立を認める甲第二一号証の一及び二によれば、原告は、昭和五九年七月五日、訴外太平興業株式会社に対し、被害車に代るものとして、新車を発注したが、同社から新車が納入されたのは同年八月一日であつたこと、被害車の本件事故前三ケ月間の運賃収入は合計金六二四万八一〇三円であるところ、原告の荒利益率は運賃収入の三〇パーセントであることの各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
しかして、右認定事実に基づき、新車発注から納入までに要した二八日間被害車を休車したことによる原告の損害を計算すると、原告主張のとおり、金五八万三一二八円となる。そして、本件事故による被害車の破損の程度が全損と評価すべきものであることは前記1に判示したとおりであるから、右金額をもつて、本件事故による原告の損害というべきである。
なお、大竹証言中には、新車発注から納入までに要する期間は、営業用トラツクの場合、二〇日間位である旨供述する部分があるが、同証人自身、右期間が何日かははつきりわからない旨も供述していることに照らすと、にわかに信用し難いものというほかない。
4 積載品の損害(同(四))について
高梨証言(第一回)、これにより成立を認める甲第二二ないし二四号証及び弁論の全趣旨によれば、本件事故当時、被害車はダイヤ社及び松下産業の各荷物を運搬中であつたところ、同事故により、右各積載品が破損したこと、そこで、原告は、運送請負人として、右各社と右各破損による損害の賠償について交渉したが、右各社から、いずれも、右破損によつて各積載品が使用価値を喪失した旨説明を受けたこと、このため、原告は、ダイヤ社に対しては、右損害の賠償として、三三万九九一〇円を支払い、また、松下産業から、右損害賠償債権と原告の同社に対する別の運賃債権とを二三万五〇〇〇円の対当額で相殺処理されたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
そうすると、右各金額の合計金五七万四九一〇円をもつて、本件事故による原告の損害というべきである。
四 抗弁(過失相殺)について
前記二2に掲記した各証拠によれば、本件事故当時、岩間は、被害車を運転して国道一一二号線を東京方面から岩槻方面に向け進行し、本件交差点にさしかかつた際、同交差点に進入する直前で、交差道路から加害車が同交差点に入りかけているのを認めたが、自車の対面信号機が青色を表示していたことから、加害車はその対面信号機の赤色表示に従い当然停止するものと思い、同交差点に進入したところ、同交差点の中央付近で、自車左側部に加害車の前部が衝突したこと、被害車は、右衝突の衝撃により、進行方向右前方に押し出され、岩間が急制動及び左転把の措置を講ずるも及ばず、中央分離帯を超えて対向車線へと進入し、折から同車線を本件交差点に向け進行中であつた小泉車の右側部に被害車の右前部が衝突してしまつたこと、以上の事実が認められ、到底措信し難いことを前記二2に判示した前掲甲第一〇及び第一七号証以外には、右認定に反する証拠はない。
してみると、岩間には、加害車を発見後、同車との衝突に至るまでの運転方法に関し、加害車の動静注視につき若干不適切な点があつたといえなくはないが、衝突後の措置については非難しうる点は見当らないものというべきところ、本件事故が高橋の赤信号見落しという基本的かつ重大な過失に基因する以上、右の程度の不適切をもつて、賠償額の算定にあたつて斟酌すべき過失ということはできない。
なお、被告は、被害車と小泉車の衝突に関し、小泉の運転に不適切な点があつたとも主張するが、同人の運転方法の適・不適は、何ら被告の賠償すべき額に影響を及ぼす事由足りえない。
五 結論
以上の次第で、原告の本訴請求は、金二三五万九〇七八円及びこれに対する訴状送達日の翌日であることが記録上明らかな昭和五九年七月四日から支払い済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 井野場秀臣)